結果

2003年6月17日
 
その頃、彼は、
心も、技も、肉体も、
最高に充実していた。
格闘技者として最高のコンディションにあった。
 
自分が負ける事など、考えられなかった。
負けると言う事は死ぬ事だと言った。
惨めな姿を晒したら引退する。
そう、言い切っていた。
若い選手達にも、自らの闘いをもって教え、育てなければならない。
現役選手と指導者という二つの立場を、見事に両立して来た船木。
 
勝ち続けるチャンピオンを船木ならきっと倒せるだろう。
このタイトルマッチに勝利し、
盟友鈴木みのるとのタイトルマッチをファンに提供するのは、
パンクラスを立ち上げた船木にとって命題であり、
ファンが最も望んでいる事でもあった。
船木の自信は、俺達にとっても頼もしいものだった。
 
1996年9月7日 東京ベイNKホール
キング・オブ・パンクラス タイトルマッチ
王者 バス・ルッテン 対 挑戦者 船木誠勝
 
船木は序盤、唯一足関節技を極めるチャンスを逃す。
 
ルッテンの破壊力抜群の打撃は、
船木の身体を徐々に破壊していく。
 
鼻が折れた。
 
ルッテンの猛攻。
 
船木の端正な顔は、血まみれになった。
 
“勝ってくれ、船木”
祈るような気持ち。
 
ダウンから立ち上がる度、声援に拳を突き上げて応える。
 
ボロ布の様になりながら、立ち続ける船木。
 
“もう、だめだ”
船木がやられてしまう。
船木が負ける。
受け入れ難い、現実。
 
彼は、ボロボロになった。
 
17分05秒 TKO 勝者バス・ルッテン
 
船木の自信は、チャンピオンに打ち砕かれた。
船木ファンの勝手な期待も打ち砕かれた。
“船木でも敵わなかった”
 
船木が引退してしまう。
そう、思った。
 
ゆっくりと立ち上がる船木。
 
目も口も頬も、別人の様に腫れ上がっている。
折れた鼻からの血も止まっていない。
  
マイクを持った。
 
涙声だった。
 
“一生懸命生きれば、結果は絶対嘘つかないから。結果は嘘つかない”
“これが俺の結果だよ!”
“闘った今、一つ言えるのはこの闘いに悔いは無いって事です”
 
言葉が途切れた。
じっと待つ。
ファンが辞めないでくれと叫ぶ。
 
船木はニコリと照れた。
 
“でも俺まだね、やり残した事一杯あんだよ!”
 
大歓声。
 
“こんなとこで辞めてられねぇよ!”
  
“明日から、明日からまた、生きるぞ!”
 
絶叫する船木。
 
 
 
船木は、一つ、答えをくれた。
 
 
 
 

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